プログレッシブ ロシア語辞典(中澤英彦・編集主幹、小学館)

この辞典の「はじめに」にあるように、過去100年、激動の歴史をくぐり抜けたロシアでは、社会構造の大転換にともない、言語もドラスティックに変化してきました。こうした刻々と変化する社会・言語状況に対応した辞書づくりは困難をきわめると推測されますが、ついに最新語彙を大量に取りいれた露和辞典が出版されました。IT用語やスラングなども広範におさえていて、インターネット上の記事を読んだり、若い世代のロシア語を理解したいわたしたちにとって、ありがたい書物です。

さて、これまでの辞書と実際どれだけ違うのかなと思って、授業で留学生が紹介してくれた最も基本的な口語表現 “круто”(すごい、かっこいい)、“прикольно” (おもしろい、かわいい)、“отстой”(最悪)が、どの辞典に載っているか見てみました。すると、前二者については、これまでのふつうのロシア語辞書では、『コンサイス露和辞典』(第5版、三省堂、2003年)をのぞき、これらの意味では載っていませんでした。三つ目の “отстой” については、『コンサイス』にも、さらにはそうした語彙を集中的に集めている『現代ロシア話しことば辞典』(日ソ、2007年)にも、この意味はありません。またIT用語でいえば、たとえば “перезапустить”(再起動する)は、『コンサイス』にのみ「リセットする」と載っているだけでした。それに対して『プログレッシブ』ではこれらの意味が全部載っています。

政治経済分野の時事用語も広くとりあげられていて、よくこんなに小さな辞書に載っているなと感心します。また基本語については対応する英単語が併記されるなど、21世紀の学習者に不可欠な参考書になっていますので、ぜひ活用してほしく思います。